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補正下着を身に着け、白いシャツに腕を通す。
スーツは真冬にとって戦闘服。
それを着るとスイッチが入る。
きっちりと髪を後ろできつく縛り、ノンフレームの眼鏡をかければ氷先生の出来上がりだ。
表情は硬く、目は鋭く光る。
そうして今日も真冬は学校へと向かっていく。
「あっセンセイ!」
正門近くの人物を見て真冬の眼鏡がずり落ちる。
「な…んで…」
赤い髪の元生徒、犬飼颯人がそこにいた。
コホンと咳払いを一つして緩みかけた表情筋を引き締める。
「犬飼くん、君は昨日卒業したでしょ」
「昨日の返事聞きにきた。センセイ走って逃げたから」
「そ…それは…。で、でも返事って」
「だからオレがセンセイを好…」
「わーーーっかった!」
真冬はトートバッグから筆記用具を取り出しメモに何かを書いて手渡した。
「ま、また連絡するから!」
こんなところで騒がれては今まで培ってきた自分の信頼が崩れる。
そう感じた真冬が渡したのは携帯の番号。
「これ、センセイの?」
手渡されたメモと真冬の顔を交互に見ながらその顔を輝かせる。
「っしゃ!センセイの連絡先ゲット!!」
拳を振り上げ全力で喜びを表わしている颯人をそのままに真冬はさっさと校舎内へと足を進めた。
「心臓がいくつあっても足りないわ」
未だ喜ぶ声が聞こえる方をちらりと見て真冬はノンフレームの眼鏡を押し上げる。
「さ、仕事仕事」
そう言って歩く姿はすでに戦闘もとい仕事モードの真冬であった。
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