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序章
「センセイ、約束は守ってもらうぜ」
人気のない校舎裏。
真っ赤に染め上げた髪に着崩した学ラン。
ボタンが留められていない学ランの下はド派手なTシャツ。
そんな彼が目の前の人物を眼光鋭く睨みつける。
対峙するのは紺色のパンツスーツをびしっと着こなす女性。
長めの髪は後ろできつく結ばれ、化粧は必要最低限のみ。
唯一華やかさがあるとすれば胸元のピンク色のコサージュくらい。
縁なし眼鏡の奥の瞳は冷ややかに赤い髪の少年へと注がれてる。
「約束?」
冷ややかな目はそのままに、何をわけのわからないことをとばかりに眉が顰められる。
絶対零度の氷先生との異名を持つ現国の教師である小堀真冬。
氷先生とは小堀が文字られたものでもある。
冷たい視線に、冷静な態度。
表情が変わることはほぼなく、笑った顔を見た者は高校内にいないと言われるほど。
「そう約束だ」
対する赤い髪の生徒、犬飼颯人はそんな絶対零度の視線にも物怖じしない。
右手に持つ黒い筒を目の前に掲げる。
「オレは今日卒業した!」
「卒業式だからね」
ドヤっとばかりに胸を張る颯人に至極まっとうなことを言う真冬。
本日は卒業式であり、颯人の担任でもある真冬はさきほど体育館でクラス全員の名前を呼んだところだったのだ。
「あの日から2年半。どんなにこの日を待ってたか!」
じりじりと真冬との間合いを詰める颯人。
「センセイ、オレ言ったよな。卒業式の日に首洗って待ってろって」
颯人と真冬の距離は手を伸ばせば届く距離まで近づいている。
じっと真冬の目を見ていた颯人が動く。
「今でもセンセイが好きです!付き合ってください!!」
目に見えないほどの速さで頭を下げて卒業証書を持っていない方の手を真冬に向かって差し出した。
二人の間に沈黙とともに生暖かい春の風が吹いた…。
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