ワンコのおめがね

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「ロンが死んじゃったらしいの」  涙声で頼子は悟に伝えた。 「そうかあ、ずっと、調子悪かったんだろ」 「うん、もう、ずいぶんおじいちゃんだったからね」  ロンとは、頼子の実家で飼っていたシェットランド・シープドッグの雄犬である。推定年齢は十六歳。犬としては長寿であろう。  頼子の両親は、頼子と二人の兄たちが、それぞれに一人前になったのを機に子犬を飼い始め、どうかすれば我が子以上に愛情を注いでいた。特に父は溺愛し、年老いて足腰が弱ってきたロンが散歩の途中で歩けなくなると、自転車の荷台に乗せて帰ってきていた。普通の荷台ではロンが怖がるので、ロンが気に入るように父が自ら手作りした荷台だったらしい。 「週末、様子見に行くか」  悟の気遣いに頼子は頷く。横で話を聞いていた、中学一年生の娘の茜も「私も行く」と言った。頼子と悟だけではなく、孫娘の茜の顔を見れば、両親も少しは気持ちが和らぐことだろう。  悟にとって、ロンは少なからず恩義のある犬であった。いや、少なからずどころではない。ロンがいなければ、今の悟と家族の暮らしは、なかったかもしれないのだから。
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