第二話

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第二話

 目を覚ますと、部屋が真っ暗だった。 「はぁ、はぁ、はぁ」  死ぬほど怖い夢を見た。  まるで夢とは思えないほど、リアルな夢だった。  そっと、背中に触れる。まだ背中に痛みが残っているみたいだ。今生きていることが奇跡のような、そんな気さえする。  部屋を見回し、自分の体を確認した。  大丈夫、どこも怪我してない。けれど、さっきの夢のせいで生きている心地がしない。  気を紛らす為に、携帯を見た。 【3月20日火曜日 AM 4:12】  背筋が、ゾッとした。  見たことのある数字の並び。  そういえばさっきの夢でも見たような気がする。  いやいやいやいやまてまてまて、そんなわけない。  きっと何かの偶然だ。そうに違いない。    そう頭では理解しているのに、身体は恐怖で動かない。  手の感覚が、恐怖を記憶している。背中が、焼けるような痛みを覚えている。    ーーカランコロンカランッ  リビングから、何かが落ちる音が聞こえた。    まるで、さっき見た夢が再現されているみたいだ。ははっそんなまさか、ないない。  けれどそう、こんなのきっと偶然なんだろうが、それでも気味が悪くて仕方がない。あやうく、タイムループしいるんじゃないか? とか思ってしまいそうになる。  でも偶然だろ、こんなの。だってそんなオカルト、ありえない。  そうだな、例えばここで突然部屋の扉が開いたりでもすれば、少しは信じてしまうかもしれないが……。  ーーガチャッ、ギィィィィイ    不意に、扉が開いた。  扉の先には誰もいない。 「あっ、あぁ、ああぁぁ」  論理的思考が停止する。  恐怖以外の感情がロストし、手足は硬直状態。布団に包まる余裕すらない。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」  浅い呼吸が何度も続いた。  脇や手足が汗ばみ、緊張で全身が痙攣する。  ーーピンポーン  さらに追い討ちを掛けるように、インターホンが鳴り響いた。  もちろん、なんの物音もしない。母が起きてきて、玄関を覗いたりもしない。  開いた扉の先、リビングのさらに奥の方に玄関が見える。遠目でよくわからないが、玄関横の窓にうっすら人影が見えた。  ……開いた扉の向こう側をじっと見ていると、何も無かったリビングから突然、ツノの生えた男が現れた。  その姿は、まさに鬼人。  鬼と人のハーフ。  背が高く、端正な顔立ち。  少し赤みがかった髪色。  筋肉質で、肌は少し黒い。  そんな鬼人は、手に血の付いた槍を持って立っていた。   「あっ、ああぁ……」  俺は怖くてろくに言葉も発せぬまま、ベットに両手を付いて後ずさる。  しかし、全く距離が取れていない。 「く、くるなぁ」  ガバッ  破裂しそうなほどに脈打つ心臓を抑えながら、一心不乱にシーツを鬼人に投げつけた。  しかしそんな抵抗は何の意味も持たないようで、鬼人がとの距離はすぐに縮まってしまう。 「わぁっ、わあぁっ」  必死に逃げようとする俺。  やがて鬼人は手に持った長い槍を無慈悲に振り翳し、グサッと俺の腹を貫く。 「うぐぅっ!!!」  文字通り腹を貫かれた俺は、血を吐き出して両膝を付いた。  ーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!  何が起きてる?  どうすればいい?  どうすれば助かる?   なんでこうなった?  俺はまた、このまま死ぬのか? 「ぐぅっ、ひゅぅ、ぐぅ、ひゅぅ」  お腹が焼けるように痛い。呼吸ができない。まだ意識がハッキリしているせいで、刺された痛みがダイレクトに脳を刺激してくる。  口から血が噴き出し、手足の感覚が無くなった。俺はその場でうつ伏せになって倒れ込む。  出血が止まらない。意識が朦朧としてきた。苦しい、苦しい、苦しい、苦しい……。
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