博物館の漬物

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彼はそう言いながら、袋の中から数粒の豆を取りだし、机の上に置きました。それはまるで、博物館にある展示品のような見た目をしていました。 「この豆は、納豆というものらしい。納豆は、糸を引く食べ物として知られている。そのため、『納豆をぬか床に入れておけば、勝手に発酵するのではないか?』という考えのもと、実際に試してみたそうだ。だが、残念なことに、納豆は腐らなかったそうだ」 彼は続けてこう話しました。 「いくら何でも博物館は酵母になりませんよ」 「そこで、ある人物は考えた。納豆はダメだったが、別のものはどうだろう? 例えば、チーズとか……。この考えに基づき、実験をしてみることにした。まず、ネズミを用意して、チーズを与えてみた。ところが、チーズを食べなかったようだ。さらに、次の日も与えてみたが、やはり食べない。結局、ネズミにはチーズが合わなかったという結論に至ったようだ」 ネズミに給餌すれば博物館が腐るのか? まぁいいや。ゆる異世界にツッコんでも仕方ないので聞き流そう。 彼がここまで話すと、助手が尋ねてきました。「ネズミに合わないものを、どうして人間に合うと考えたんですか?」 「それは、人間なら、納豆でもチーズでも何でも食べるからだよ。だから、人間が食べれば美味しいものが、ネズミにとっては食べられないものなんじゃないかと思ったわけさ」 男はそう答えたあと、こう続けました。「ただ、この考え方にも問題があるんだ。なぜ人間は食べられるのか? その理由を考えたときに思いついたのが、これなんだ」 彼はポケットから一枚の写真を出しました。そこには、大きな瓶に入った液体状の何かが見えます。その瓶の中には、たくさんの白い塊があるように見えました。 「これは、牛乳だ。牛の乳汁と呼ばれているものだ。牛乳を飲むことで、人は栄養分を得ることができる。そして、チーズやヨーグルトを食べることにより、カルシウムなどの栄養素を得ることができる。つまり、我々は栄養を得るために牛乳を飲み、チーズを食べていると言える。しかし、この理論が正しいとすれば、人間の体の中で納豆菌などが繁殖し、栄養分の代わりに納豆菌などを放出する可能性もあるということになる。そうなると、我々にとって必要な栄養は得られなくなるかもしれない。まあ、今のところはまだ、そのようなことは起きていないようだけどね……」 「じゃあ、もし、あなたが納豆菌を摂取したら、どんなことが起きるんですか?」 助手は質問をしました。 「それは分からない」 男は即答しました。「ただし、納豆菌を摂取しても、体に害はないはずだ。現に、多くの研究者たちは健康だ。おそらく、そうすることで、免疫力を高めることができると考えているのだろう。実際、納豆菌は様々な病気に対する予防効果があると言われている」 ●納豆菌のシェディングという考えかた。 「ええっと、つまりあれですか? COVID-19ワクチンの接種に反対する勢力が唱えている伝搬(シェディング)のような現象が納豆摂取者にも?」 私は気になる噂話を知っていたので口を挟んだ。 SNSの事情通によると接種済者の身体から良からぬ物質が香るのだという。 「シェディングねぇ。まぁゆる異世界の力を借りればできなくもないよ」 男は軽くいなしつつさらにこう説明を続けました。
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