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直球で聞くと、「ケンちゃん」は明らかに顔色を変えた。その額から汗が吹き出してくるのは、暑さのせいだけではないだろう。
「な、なんの言いがかりだ……」
分かりやすく、男の体がぶるぶる震える。近所の目を気にしたのか、助けを求めたいのか、その目がキョロキョロと左右に泳いでいた。
「おれは、おばあちゃんに頼まれて……」
「頼んでねぇよ。だいたい、ばあちゃん今いねぇだろが」
「……ぇ、あ……」
「二万ずつちょいちょい下ろしときゃ、バレないと思ったんだろ?」
「……」
ばあちゃんの暮らしは質素だ。その割に、現金引き出しの頻度が高い。しかも、デイサービスの日に限ってATMを使っているなんて、不自然すぎる偶然だ。
「あ、あんたに関係ないだろ……っ」
「あるね」
間髪いれずに反論した俺に、「ケンちゃん」が目をむく。
「どんな……」
「あ? それこそ、お前に関係あんのかよ」
悪いが、場数が違う。俺がすごんで見せると、男は「ひっ」と鳴いて目をつぶった。
硬直した体に手を伸ばし、胸ポケットのカードを抜き取る。思ったとおりそこには、ばあちゃんの名前が印字されていた。
「お前さぁ」
「すっ、すみません……っ」
「俺に謝んなくていんだよ、相手が違うだろが」
「すみませんっ」
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