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「ケンちゃん、すいかもっと食べなさいな」  ばあちゃんが目を糸みたいにして、座卓の上の皿を俺の方に押し出した。  すいかなんか、普段はめったに食わない。種を出すのが面倒だし、水っぽくてまずいし。でもどうやらばあちゃんの頭の中では、すいかは俺の好物ってことになってるらしい。 「ケンちゃん、昔からすいか好きよねぇ。ほら、幼稚園の頃は縁側で、種を遠くに飛ばして見せてくれたじゃない?」  ふふふ、とばあちゃんが笑う。その脳には、小さな口から庭に種を飛ばして得意がる、幼児の姿が映し出されているんだろう。  俺は照れ笑いを浮かべ、少しうつむいて首を振った。 「やめてよそんな、昔の話」 「ばあちゃんにとってはついこの間のことなのよ」 「俺もういい歳なんだからさ」 「まだ二十四歳でしょう」 「二十四歳、だよ」  反論する俺ににこにこ笑い、ばあちゃんは座卓の天板に両手をついた。何も言わずに立ち上がるとき、行き先はだいたいトイレだ。  ばあちゃんは足が少し悪いから、下半身を使う動作が遅い。居間の襖を開けてやると、「ありがとうね」と言いながら、ゆっくり廊下の奥に向かった。  部屋の冷えた空気が逃げないよう、すぐに襖を閉める。一人になった俺は、たんすの二段目の引き出しを開けた。
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