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顔のすぐ近くで、ホッと息を吐く音がする。
「大丈夫?」
「……平気。ごめんね」
「気をつけて」
残りの段を支えて貰いながら降りきると、廊下の向こうから先生の声が響く。
「おー、まだ残ってたのかー。帰り気をつけろよー」
「「はーい、すみませーん」」
声が重なって、思わず顔を見合わせる。気恥ずかしさからぱっと視線を逸らすと、足早に玄関へと向かった。
「……さっきはありがとう」
「どういたしまして。じゃあ俺、こっちだから」
「うん。また明日ね」
軽く手を振ると同じように振り返してくれた。大きな背中が遠ざかっていくのをぼんやりと見つめていたことに気がついて、方向を変えて歩き始める。
アクシデントとはいえ、力強く抱き止められた感覚は未だに身体に残っている。男の子じゃなくて男の人の力なんだと、身を以て知った。
そういえば……頭とか、におったりしてないよね……? ふと過ぎった不安に、髪を一房つまんでくん、と鼻をひくつかせる。――大丈夫。不快なニオイはしない。胸を撫で下ろして、どこか柔らかい薄暮の風を感じながら帰宅の途についた。
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