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花澄は目の前に積まれた小説3冊を見て、げんなりした顔を向ける。
「持ってくるなら家に持ってきてよ。重いのに」
ハードカバーでページ数もまぁまぁ多い小説は、3冊集まれば結構な重さだ。
「嫌だね。自分で持って帰れ」
えーっ、どうしてそんな意地悪言うの!?
「ヒロ、なんか今日冷たくない?」
「別に」
どこかいつもと違う気がするのだが、理由は不明だ。
不満を抱えつつ花澄は諦めて問う。
「それで……自分では全然好きだと思ったことがないんだけど、私の字のどこが好きなの?」
「そうだな……ちょっと傾いてるのに不思議とバランスがとれてて、転びそうなのに転ばなくて、なんか花澄っぽい」
微妙に貶されてる感じがするのは気のせいかな。真っ直ぐな字の方が綺麗だと思うし、転びそうになんてならずにしっかり立っている人の方が憧れる。
「あっそ。それはどうも」
特に嬉しくはなくてプイッと顔を背けた。
すると――
「きれいだよな。花澄……」
えっ、私!?
しかし、そんな期待は一瞬で消え去る。
「――の家の猫」
だから紛らわしい言い方をするなー!
懲りもせずに勘違いした自分が恥ずかしくて、慌ててごまかす。
「そ、そうでしょ? 美人なの」
「名前何だっけ。ラララ、みたいなの」
「うらら」
「あぁ、それだ。花澄にそっくりだよな」
そっくりって、それって……
するとそんな期待もまたもや一瞬で消え去った。
「腹立てると、目釣り上げてキシャーって怒るのなんかは特にそっくり」
……あぁ、はい。怒った顔のことね。
懲りない自分にもヒロにもだんだん腹が立ってきて、握ってるシャーペンのボディのド真ん中をボキッと折ってしまいそうなほど手に力が込もった。
「さっきから全っ然褒められてる感じがしない」
ムスッと不機嫌さを顔に出すと、ヒロはクスッと笑った。
「そうそう、それもいいよな」
「なっ、何!?」
「その、蛙みたいな膨れっ面」
よりにもよって蛙って……
この男のデリカシーはどこへ行ったんだ。
花澄の怒りはさらに増した。
「何なの、一体……」
「昔からそういう顔、全然変わらねー」
フフッとヒロは小さく笑うが……
あーー、腹立つ!
「日誌書いてるんだから邪魔しないで」
フンッと不満をあらわに日誌に視線を落とすと、再びヒロの呟く声が聞こえてきた。
「これ、好きなんだよな……」
もう苛立ちしか湧かない。どうせからかうのだろう。
目も合わせずに不満を込めて問う。
「今度は何?」
「ん? 花澄のこの、『本物か?』って疑いたくなるような髪。触ってみていい?」
はぁ!?
この海苔みたいに黒いストレートのロングヘアがヅラっぽいとでも言いたいのか。触ってズレないか確認でもする? 残念ながらズレないわよ!
「触らないで! 偽物っぽくて悪かったわね」
「そんな怒るなよ」
「ヒロのせいでしょ」
散々な言われように酷く泣きたい気分で顔を逸らした。
「わかった、触らないって。なぁ花澄……芹澤先輩に告られたんだよな?」
唐突で断定的な問いにヒュッと息が止まった。
ヒロには知られたくなかったのに……。
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