01:初恋は、そっと彼の髪をかき分けた瞬間に。

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 梨香子は稀に見る美形であり、両親も、両家の祖父母や親戚達まで、自分達の家系からこれほどの美人が生まれてきたことは奇跡だ、と口を揃えていうほどに見目麗しい女性に育っていった。  本人曰く、母の唯一の取り柄である平行幅の大きな二重と、父が持つ唯一の自慢であるシュッと整った鼻筋を、うまい具合に掻い摘んで受け継いだおかげで今の自分があるのだと言っている。  そんな梨香子のことを、世間は『日本史上もっとも美しい顔を持つ女優』と言い、女性がなりたい顔ランキングや、男性が彼女にしたいランキングなどを何年も総ナメにしている強者だった。  今では女優業だけでは留まらず、世界的に有名なハイブランドのアンバサダーを務めたり、モデルとして世界各国のランウェイを歩くほど、実力と経験を積みながら、谷許リカはその若さで日本の芸能界を圧倒的な『美』と『演技』で牽引している大物人物となっている。  けれど、梨香子はただ自分の職業が『芸能』なだけであって、普段はなんの取り柄もない普通の人間だとさまざまな媒体のメディアで語ってきている。  実際に梨香子が大学へ入学してから多いに騒がれたのは最初の一ヶ月程度のことで、あとは見事に周りに溶け込んでいた。  それはきっと、彼女の見た目に反した素朴な性格と、生後八ヶ月のときから大人達に揉むに揉まれて鍛えあげられた気配りのスキルのおかげに違いない。    「はぁ、できることならあと五年くらい大学生やってたかったなぁ」  「なに言ってんの。課題に追われてるときとか試験前はいっつも"大学生になんかならなきゃよかったー!”って言ってたじゃん」  「うん、課題も試験もない大学生活を五年送りたいってこと」  「なにを馬鹿なことを」  「だってさぁ、なんて言うかさぁ」  「なによ、大学でやり残したことでもあるわけ?」  「そりゃありますよ、杏奈さん」  「聞いてあげるから言ってみなよ」  「恋をしていないじゃないか!恋だよ、恋を!!若人が恋をせずに何しろって言うんだ!!恋!恋よ来い!恋来い恋来い!」  「やっぱり聞きたくない!喋るな!!」
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