01:初恋は、そっと彼の髪をかき分けた瞬間に。

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 今まで一度だって恋をしたことがないのだから、リークされる情報も出てくるわけがない。  とはいえ梨香子の華々しい二十二年間の人生の中には、さまざまな男性との出会いがあった。  ドラマや映画で共演した俳優やトップアイドル、共にランウェイを歩いたカリスマモデルに、同じ事務所の同期達。  いくら『恋愛は芸能人生の傷となる』と言われていても、実際に谷許リカに言い寄ってきた男性は数多くいた。  それを懸念した事務所は当初、「恋愛だけはまだダメだ!」と懇々と言い続けてきたのだけれど、そんな彼らの心配をよそに、彼女はどんな素敵な男性に告白をされても首を縦に振ることはなく、たった一人でこの険しい芸能界を歩いてきている。  とはいえ、谷許リカは過去に何度か共演者との熱愛を疑われたことがあり、週刊誌はここぞとばかりに谷許リカのスキャンダルを探し出そうと躍起になっていた時期があった。  けれど、堂々と一人で焼き肉店に入って肉を頬張り、そのあと見事に一人カラオケを決め込んだところを撮られたあたりから、さすがの週刊誌もお手上げ状態だったことを本人は知らない。  今では逆に事務所の人達が違う意味で心配するほど、梨香子は恋愛とは程遠い人生を送ってきていた。  「……杏奈氏、私が芸能界でなんて言われてるか知ってる?」  「知るわけないでしょ。あたし一般人だし」  「谷許リカは鋼鉄のパンツを履いた女って、言われてる」  「……ぶっ!!」  「どんなイケメンが寄ってきても絶対に足を開かないから鋼鉄のパンツ、なんだって」  「説明とか……っ、ふっ!いらないから」
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