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「とにかく、このまま床で眠らせておくわけにもいかないし、医務室に連れていくしかないね」
「そ、そうだね。私運ぶよ。ジムで鍛えてるし、体力には自信があるんだよね」
「でもアンタ収録あるんでしょ?あとはあたしがしておくから、梨香子はもう行きな」
「そんなわけにはいかない!」
梨香子はバッグの中からガサゴソとスマホを探し出し、すでに彼女が構内から出てくるのを今か今かと待ち構えているマネージャーに『緊急事態発生。だがしかし、案ずるな。しばし待たれよ。』とだけメッセージを送り、倒れた男を持ち上げようと腕に触れる。
「……っ」
が、また途端に心臓が暴れはじめてしまったせいで、梨香子の動きはピタリと止まる。
彼のきれいな寝顔を見ると、担いで医務室まで運ぶなど到底できなくなってしまった。
「や、やっぱり杏奈にも手伝ってもらおうかな。私は足を持つから、杏奈は頭部をお願いできる?」
「……頭のほうが重たいんだけど」
「だ、大丈夫!杏奈に負担がかからないように、できるだけ足を高く持ち上げるから!私、頑張るから!」
「いやそれは頭に血がのぼって可哀想でしょ。ってか、足を持ち上げられながら運ばれる絵面ってやばいでしょ」
「お願いだよ杏奈!私は彼のご尊顔を持ち上げるなんてできっこない!」
「何言ってんの、アンタ」
懇願しながら叫んだ梨香子の意味不明な発言に頭を抱えながらも、杏奈は仕方なく男の両脇に腕を挟んで持ち上げる。
それにならって、梨香子も同じようにそっと足を持った。心の中で、『触れさせていただきます。失礼いたします』と深く合掌しながら。
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