一、訃報

1/2
前へ
/11ページ
次へ

一、訃報

 竜彦(たつひこ)叔父(おじ)ちゃんが亡くなったと知らせが届いたのは、父の運転する車中でのことでした。 「今の電話、誰からだ?」 「お母さん。さっきお祖母ちゃんから連絡があって、竜彦叔父ちゃんが家で亡くなっていたって。お通夜は無しで、明後日が葬儀なんだって」  助手席で私は投げ遣りに答えました。雨の中、参加したくもない体育祭の応援練習に駆り出され、疲労困憊なのです。  とつぜん車が急停車しました。  私はダッシュボードに頭を打ち、文句を言おうとしましたが、父は青ざめて、フロントガラスを指差して言うのです。 「今、そこに竜彦が立っていなかったか?」  私は痛む額をこすって目を細めました。  ワイパーが拭いきれないほどの大粒の雨の向こう、周辺には雑草が生い茂るばかりで歩行者の姿はありません。 「誰もいないよ?」 「そ、そうか。そうだよな」  目の前で踏切の遮断機が下がり始めました。静まり返った車内に、カンカンカンと踏切の警報と、雨粒の当たる音、ラジオから流れる雑談が混じり合います。  父は竜彦叔父ちゃんと不仲でしたから、後ろめたい思いが幻を見せたのでしょう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加