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一、訃報
竜彦叔父ちゃんが亡くなったと知らせが届いたのは、父の運転する車中でのことでした。
「今の電話、誰からだ?」
「お母さん。さっきお祖母ちゃんから連絡があって、竜彦叔父ちゃんが家で亡くなっていたって。お通夜は無しで、明後日が葬儀なんだって」
助手席で私は投げ遣りに答えました。雨の中、参加したくもない体育祭の応援練習に駆り出され、疲労困憊なのです。
とつぜん車が急停車しました。
私はダッシュボードに頭を打ち、文句を言おうとしましたが、父は青ざめて、フロントガラスを指差して言うのです。
「今、そこに竜彦が立っていなかったか?」
私は痛む額をこすって目を細めました。
ワイパーが拭いきれないほどの大粒の雨の向こう、周辺には雑草が生い茂るばかりで歩行者の姿はありません。
「誰もいないよ?」
「そ、そうか。そうだよな」
目の前で踏切の遮断機が下がり始めました。静まり返った車内に、カンカンカンと踏切の警報と、雨粒の当たる音、ラジオから流れる雑談が混じり合います。
父は竜彦叔父ちゃんと不仲でしたから、後ろめたい思いが幻を見せたのでしょう。
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