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第4章 終わりの日(4)
お風呂上がりの千歳はまるで日だまりのようにぽかぽかと温かかった。
緊張していた唯の肩から力が抜けていく。
(やっぱり、気のせいなのかも)
もしかすると、と考えていたことを打ち消す。唯のことを女性として好きなら、性的な興奮を感じるはずだ。何度も体を密着させたというのに、何もないなんてことあるのだろうか。
だから大丈夫なはずだと唯は自身に言い聞かせる。なのに、胸が痛くて涙が出そうになった。
(もう手遅れだったんだ)
唯はもう消えることなんてないくらい、千歳への気持ちが胸に刻まれていた。千歳とずっと恋人でいたい。夜だけでも独占したい。自分では不釣り合いだと思っているのに、そんな理由で打ち消せるほどのものではなくなってしまった。
(何も考えたくない)
考えれば考えるほど、唯はどれほど千歳が好きなのか思い知らされる。
「千歳さん」
「唯、そんなに怖がらないで」
泣きそうになっている唯に、千歳は優しく笑いかけた。
(千歳さんと恋人じゃなくなる瞬間より痛いことって、あるのかな)
とうとう零れ落ちた涙を、千歳は嫌な顔一つせずに指先で拭う。
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