第3章 この人が欲しい(5)

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 千歳の秘書になっても、彼は遠い存在だった。どんなに近くにいても、違う世界の人。何かの気まぐれによって、自分は秘書になっているだけで自分よりも有能な誰かが表れたら役目を終えるかもしれない。それでも必要とされる限りは頑張りたかった。秘書を辞めることになっても、今後のことで困らないくらいには自身の能力を磨いている。転職しても、うまくやっていけるだろう。 「唯」  恋人に向けられるであろう声を聞くたび、脳が痺れそうになっていく。  ゾクリとするほど優美で蠱惑的な笑みを向けられ、唯はどうして今まで平気だったのか分からなくなった。  知らないうちに、何かが蓄積していた。それが何なのか、知ろうともしなかった。  明日には、唯は処女を喪失する。もうすこしだと思ったら、気が抜けてしまったのか。 「すみません、……もうすこしで恋人関係も終わるのかと思うと名残惜しくて」  千歳は繋いでいる手にそっと力を込める。 「そろそろ夕飯を作ろうと思うんですけど」 「はい」  手がなかなか離れない。 「千歳さん……」  それでも名前を呼べば、千歳は苦笑しながら手を離してくれた。
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