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医師の顔がみるみる険しくなる。唯と初めて会ったのは十年の前だ。なので、彼女の事情はある程度知っていた。それにデリケートな内容なので無理強いしないようできる限り冷静に、穏やかに、接していたのだが――
「一体いつまで処女でいるつもりなの! 症状が出てから十年以上も薬を飲んでいるなんて聞いたことがないわ。男性が苦手なら道具でも何でも使ってこじ開ければいい。でも、恋人がいると言って一年、セックスもなし? それなのにもう三回も刺されてるのよ! 三回! 薬がなかったら高熱で死ぬ場合だってあるかもしれないの。もっと危機意識を持って」
「まずい状態だってことは分かっています」
二十年前、蚊が突然変異した。一定の年齢に達した処女の女性が変異した蚊に刺されると、痒みではなく発熱や倦怠感に襲われるようになったのだ。
そしてその症状は一時的なものではない。
現在、治療方法は処女を喪失すること以外になく、薬は症状を抑えるものしかなかった。
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