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千歳の話す、いつか来るであろう感情は正しい。生きるためとはいえ、事務的に済ませてしまえば無自覚に自分を傷つける結果に終わるかもしれない。けれど、唯は選り好みできる状況でもない。
「千歳さんの負担にはなりませんか。別荘ってその……」
「大丈夫。俺が買った場所ですから。管理も頼んでいるし、時々一人でゆっくりしたい時に過ごしています。……そう言うと、あんまり特別な場所って感じでもないのかな。うーん、どこか貸し切って……」
「いえ、私には充分ですから! 別荘で! 別荘でお願いします!」
「じゃあ、一泊二日の旅行ですね。必要なものはだいたい別荘にあるので、唯は一応薬さえ持って行けば大丈夫だと思います。旅行の準備はしなくて大丈夫ですからね」
「もう決定したんですか」
「唯にどうしたいか希望があれば、その通りにしますよ」
「……いえ」
二十七歳にもなってどんな初めてがいいかなんて、唯が千歳の前で語れるはずがなかった。とんでもない羞恥プレイである。そして伝えれば、千歳は喜んで実現しようとするだろう。ありがたい話ではあるが、羞恥で死ぬ。それも二回は確実に死ぬ。
だから絶対に言えそうになかった。
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