第1章 副社長と契約恋愛(1)

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 1Kのアパートには、玄関から部屋に続く短い廊下がある。洋室八畳に続く部屋の前には扉があるので、その扉を開けない限りは唯が訪れていることにも気づかないだろう。  その部屋には明かりが漏れていた。 「でさ……」  それは一矢の声だった。  会話の内容を聞き取ろうと、扉に近づく。  これが男同士であれば、唯はすぐにでも部屋を出ていただろう。話は後日にすればいいと、電話を選んだ。  しかし、聞こえてくるのは女性の声である。  一矢は女性を招き入れていた。  唯も一矢に女友達が複数いることは知っていた。悪気はないだろうし、友人関係に口出ししたくないから怒るつもりはないが、もやもやする。 (プロポーズ直後なんだから、家の中で男女が二人きりになることを避けるくらいはしてくれてもいいのに……)  そういうものではないのだろうか。 (どうしよう)  今から、中にいる一矢を呼ぼうか。  初対面の女性と会うのは気が引けるけれど、ここで引き返せば心が晴れることはないだろう。 「そういえば、結婚するんだって?」  扉に近づくと、女性の声がはっきりと聞こえた。 (もうすこし聞いてみよう)
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