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別荘にある浴室は、マンションにあるものより遙かに広かった。というか、温泉旅館の個室にある半露天風呂みたいだった。庭に面している壁は鏡張りで、大きな風呂の水面には外にある木々が反射して映っている。お風呂をわかす必要はなく、なみなみとある湯船にマンションなんてまだマシな方だったと唯は感想を零す。
「豪華なお風呂なのに、落ち着く……」
そわそわして落ち着かないことになるだろうと思ったが、唯は長湯したいくらいに心地よく感じていた。
お湯の温度はちょうどいいし、外の景色も見えるから森林浴でもしているかのような気分を味わえる。おまけにどこからか檜の匂いもするのだ。
「気持ちいい」
そのまま目を瞑って眠ってしまいたい衝動に駆られるが、あまり遅ければ千歳が様子を見にくるかもしれない。もう充分楽しんだ。けれど、もうすこしだけ入りたかった。そんな風に、後ろ髪を引かれながら浴室を出た。
(それにしても、この豪華な生活に慣れ始めてしまっているのが怖い……)
普通のことだなどと思って享受するわけではないが、ビクビクすることはなくなってしまった。
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