第4章 終わりの日(3)

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 唇が触れかけた一瞬、それは頭突きに変わりちょっとした事故に終わる。何もかもなかったことにはならず、そのまま唇を奪われても構わなかったと思う自分に気づいて、怖くて、何度も合コンに参加した。そうして一矢を恋人にして、唯の記憶は完璧に上書きされた。千歳に恋人ができたと報告をしても、穏やかな表情で笑ってくれる。やはり、あれは事故だと思ったのだ。 (あ……)  寝室に近づく足音が聞こえる。 (待って、今は)  気持ちの整理が追いつかない。  こんな状態で会えない。会えないのに、千歳はまっすぐ唯の元へ向かっていた。 「唯、こんなところで丸くなってどうしたんですか」  いつもと変わらない柔らかな声音。優しく語りかける声は、いつにも増して唯を気遣っているようにも聞こえた。 「……緊張、して」 「お風呂、一緒に入れば良かったかもしれないですね」 「それは、それはいいです!」  唯は勢いよく首を横に振り、立ち上がる。ぎこちない動作で歩くと、千歳は唯のお腹に腕を回した。 「できるだけ、痛くならないようにしますね」 「お願いします……」  答えると、千歳は唯をベッドの中へと導いた。
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