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唇が触れかけた一瞬、それは頭突きに変わりちょっとした事故に終わる。何もかもなかったことにはならず、そのまま唇を奪われても構わなかったと思う自分に気づいて、怖くて、何度も合コンに参加した。そうして一矢を恋人にして、唯の記憶は完璧に上書きされた。千歳に恋人ができたと報告をしても、穏やかな表情で笑ってくれる。やはり、あれは事故だと思ったのだ。
(あ……)
寝室に近づく足音が聞こえる。
(待って、今は)
気持ちの整理が追いつかない。
こんな状態で会えない。会えないのに、千歳はまっすぐ唯の元へ向かっていた。
「唯、こんなところで丸くなってどうしたんですか」
いつもと変わらない柔らかな声音。優しく語りかける声は、いつにも増して唯を気遣っているようにも聞こえた。
「……緊張、して」
「お風呂、一緒に入れば良かったかもしれないですね」
「それは、それはいいです!」
唯は勢いよく首を横に振り、立ち上がる。ぎこちない動作で歩くと、千歳は唯のお腹に腕を回した。
「できるだけ、痛くならないようにしますね」
「お願いします……」
答えると、千歳は唯をベッドの中へと導いた。
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