プロローグ

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 恨む気持ちはない。両親からの愛が欲しいという小学三年生らしい感情はあったけれど、どうにも千歳の心は乾ききっていた。彼らの顔色を窺いながら生活するよりは、一人でどうにか生きていく方がずっと楽である。とはいえ、千歳が持っている金額では二週間も生活することはできないだろう。そのうち、大人たちにバレてしまう。バレたら、どうなるのだろうか。この生活よりも悪い環境に身を置くことにならないとは限らない。  だから千歳はできる限り、他の子どもと同じふりをした。料理も洗濯も、やろうと思えば一人でできてしまうのだ。ゴミを出す日だって覚えている。元々、両親はやってくれないから千歳がやっていたことだ。  しかし、一週間もすれば疲れが出て熱を出してしまった。  一人きり。静かな家の中、千歳は苦しげに息を吐く。  今なら咳をしても誰かが嫌がることはない。弱音を吐いても、面倒くさいと睨まれることもない。  なのに咳はうまくできないし、言いたいことも思い浮かばない。 (そっか、これが『こどく』……)  は、と息を吐きながらぐらぐらと痛む頭に眉を寄せる。
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