第1章 副社長と契約恋愛(1)

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 鍵が入っているであろう場所は分かっている。ちょうど玄関近くにかけられた鞄の中にあるはずだ。  探ってみると、鍵が見つかった。  しかし、それと一緒に見覚えのあるポーチまで発見する。そのポーチは唯のもので、中には通帳やカードが入っている。念のため、通帳も開いてみた。お金が引き出された形跡がないのは、今日の日中に取ったばかりだからだろう。  ほんの数分間だというのに、怒濤の展開である。  この場で笑ってしまいたいほど悲惨な状態だった。正確には悲惨になる一歩手前で踏みとどまることができたと言うべきか。  このまま、一矢と結婚して処女であることを明かしたらどうなっていただろう。  他に盗られているものがないか、一度家に戻って探さなければならない。一矢を家に招き入れたのは一度や二度ではないのだ。盗める瞬間はいつでもあった。 (ううん、お金になるものなんてとくに持ってないから、通帳さえ取り返すことができれば大丈夫なはず……)
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