第4章 終わりの日(5)

3/7

232人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
「嫌……嫌です」 「本当に俺だとだめなんです。困惑して当然ですよね。だけど俺は――」  唯の目尻に浮かんだ涙を、千歳は優しく拭う。それでも溢れ出す涙を、温かな目で見守った。 「――唯のことを愛しているから」  恋人になってから、千歳は言葉でそれを示したことはなかった。「可愛い」と言うことはあっても、「好き」とは言わない。「大切な恋人」と言うことはあっても「愛している」は言わなかったのに。 「それなら、こんなことしなくてもいいじゃないですか」 「唯の意思を尊重したいんです。だって、俺の気持ちは負担になるでしょう。分かっています。会社の重役で、久我の実子どころか養子なんて面倒ですから。わざわざ大変な身の上の俺を選ぶなんて、唯はしない。それは俺が一番よく分かっています」  唯を責める色は何もない。むしろ、申し訳なさそうな表情だった。 「選んでくれるなら、できる限り守りたいけれど、唯の心までは守りきれるなんて言えません」  それでも千歳は自身のことを自分勝手な男だと評価するだろう。 「だから、恋人期間が終わったら俺は唯への気持ちを諦めます」
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加