第4章 終わりの日(5)

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 このまま受け入れてしまえば、唯は元の日常を取り戻すことができる。それを千歳は約束してくれた。言ったことは守る人だ。ここまで潔く言うのであれば、抜け道を探すことはないだろう。  千歳は確かにずるい男だった。  けれど、今この瞬間では唯の方が最もずるいのだと思い知らされる。  一生を誓うつもりもないのに、好きな気持ちを抱えておいしいところだけを得ようとしているのだ。  最初から、千歳は綺麗な思い出だけを与えるつもりはなかった。 「そのかわり、いつかすこしだけ後悔して――」  そうすれば唯は甘い記憶と共に小さな痛みを思い出す。ただの優しい記憶より、その方がいつまでも唯の中に残るだろう。自分は気持ちを諦めると言いながら、唯には一生心の中に残そうとするしたたかさを彼女は責められなかった。 「ちとせ、さ……っ」  秘所に当てたバイブに力が込められる。唯は悲鳴を呑み込み、泣きながら両手でそれを拒んだ。 「唯」  それだけはだめだと唯の心が叫んでいた。 「こんなことされるくらいなら、知らない誰かに……」  いっそ、風俗を探して痛い思いをした方がと言いかけ唯は唇を閉じる。 (あ――)
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