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それは千歳をこれ以上ないほど、傷つける言葉だった。
彼の笑みは抜け落ちて、今にも壊れてしまいそうだった。
「……どうしてそんな顔をするんですか。そんなに好きなら、千歳さんがすればいいじゃないですか」
「だって、唯は俺が手を伸ばしたら逃げてしまうから」
「逃げるって……」
「好意を伝えようとした途端、急いで恋人を作ったじゃないですか」
だからずっと隠していたのだ。直接的な言葉は言わず、恋人役を演じ続けた。
唯は千歳に好かれていると分かっていたら、絶対に断っているから。
けれど、今日まで自身の欲を表に出さずに恋人のふりをするなんて、普通できるだろうか。
今までどんな気持ちで唯に触れていたのだろう。
唯は想像すると、胸が苦しくて息が止まりそうになる。
ずっと、平気だと思っていた。
千歳は誰かに何を言われても、馬鹿にされても、穏やかなまま笑みを崩すことはなかった。
彼と平等な立ち位置の人なんて、片手で数えるくらいだ。唯はその中に入っているはずがないからと甘えていた。
知らないうちにどれほど傷つけたのだろう。
恋人ができたと話した時、千歳は笑顔で祝ってくれた。
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