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千歳がお見合いをすると話した時、唯が頑張って調べようとすると、千歳はそんなに頑張らなくていいと笑っていた。
結婚する予定だと話した時、千歳はやっぱり笑顔で祝ってくれた。
結婚しても仕事は続けると話した時、千歳は嬉しそうで――
――それを思い出した唯は、心底後悔した。
千歳の隣に立つ未来なんて、一度だって考えなかった自分を。
「好き。好きです」
唯は秘書という立場に満足していた。それが壊れてしまうと思うと、怖くなって全力で逃げたのだ。
「千歳さんのことが好き」
声に出したら認めてしまうから、出したくなかった。
伝えたのはこれ以上、彼を傷つけたくなかったからだ。
「どんなに痛くても、千歳さんがいいです」
それくらいなら、いっそ自分が傷つく方がよっぽどいい。
だけど、それも勝手な気がした。
唯は掴んでいたバイブから手を離す。
「でも、千歳さんが楽になるなら」
好きだという感情を全部、唯の中に残してしまえばいい。
もうたくさん、守ってもらえたのだ。
「そのまま、押し込んでください」
許されなくていい。
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