第4章 終わりの日(6)

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 千歳は天使のようにふわふわと微笑んだ。表情とやっていることのギャップがすごい。  彼の言葉に嘘はない。本当にそうなのだろう。けれど、諦めると口にしたわりに、諦めなくてもいい時の用意が万全すぎるくらいにできていた。 「……嫌になりましたか?」  千歳は首を僅かに横へ傾ける。しおらしくもあり、挑発的でもあった。 「それくらいで嫌になるような好きだったら、千歳さんがいいなんて言わないです」 「ん」  答えると、彼は笑みを浮かべて満足そうに唯に顔を寄せる。  甘く艶やかな髪が唯はすこしくすぐったかった。小さく吐息を漏らすと、その唇が優しく奪われる。 「そのまま、俺だけ見ていてください」  千歳の手にはコンドームがある。装着するから、うっかり下は見ないようにという意味だろう。  唯はこれから体の内側に入るものが一体どれほどのものなのか気にはなった。見ない方がいいと言われて最初は素直に従っていたのだが、すぐそばにあるコンドームの山を見ると、確認しておくべきなのではないかと疑問を抱かせた。  けれど、千歳の甘い視線を一身に受け止めている状況で余所見などできるはずもない。
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