第5章 全部あげたい(1)

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 言いながら、千歳はひそかに微笑む。  唯は千歳がお見合いをすると聞いた当初は、相手の女性について調べて資料を渡すほど熱心に取り組んでいた。それがこの前は、とても複雑そうな表情で調べていたのだ。実際は達也のお見合い相手の面接をしているだけなので、彼女の不安は杞憂である。千歳が唯に好きだと伝えても逃げなくなったので、今なら本当のことを伝えても大丈夫だろう。  どんな反応をするのか想像して、千歳は一年辛抱した甲斐があったと実感する。 「……本当に、聞いてない……聞いてない……」  小学生の頃から兄弟として千歳と過ごしている達也は、本気でへこんでいた。知らないことが多すぎる。何でも報告しろなんて言うつもりはまったくないが、それはそれ。大事なことを知らないのはへこむ。 「恋人ができたことは後で言うつもりでしたよ。昨日、恋人になったばかりなんです」 「良かった。……うん、千歳に恋人か……おめでとう」  達也は噛み締めるように呟いた。電話越しに鼻を啜る音がする。一体、彼は何目線で感激しているのだろうか。 「ありがとうございます」 「ちゃんと人間か?」
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