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千歳はもう切ろうかな、と思った。思っただけで、本気で切るつもりはなかったのだがうっかり手が当たった。
そして即、達也から着信が来る。
「それで、どんな人なんだ?」
何事もなかったかのように会話が再開した。
「達也の知っている人ですよ」
「俺のお見合いの面接で知り合った人……とかではないよな」
「月野さんです」
「月野?」
「会社にいるでしょう。俺の秘書です」
「……そうか、おめでとう」
様々な言葉を呑み込んで、達也は祝いの言葉を述べる。内心では「月野さんが可哀想だ」「魔の手から逃れられなかったんだな、月野さん」などと思っていた。千歳をよく知らない人からすれば祝う人がほとんどだろうが、彼をよく知る達也は同情的である。
きっとこれからの人生、唯は千歳に振り回され続けるだろう。
しかし、それを嫌だなんて思うことはなく、むしろ幸福を感じてしまう。ある意味では、幸せなことなのだが達也は「本当に千歳でいいのか?」と確認したくなった。
「さて、と……」
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