第5章 全部あげたい(1)

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 千歳はもう切ろうかな、と思った。思っただけで、本気で切るつもりはなかったのだがうっかり手が当たった。  そして即、達也から着信が来る。 「それで、どんな人なんだ?」  何事もなかったかのように会話が再開した。 「達也の知っている人ですよ」 「俺のお見合いの面接で知り合った人……とかではないよな」 「月野さんです」 「月野?」 「会社にいるでしょう。俺の秘書です」 「……そうか、おめでとう」  様々な言葉を呑み込んで、達也は祝いの言葉を述べる。内心では「月野さんが可哀想だ」「魔の手から逃れられなかったんだな、月野さん」などと思っていた。千歳をよく知らない人からすれば祝う人がほとんどだろうが、彼をよく知る達也は同情的である。  きっとこれからの人生、唯は千歳に振り回され続けるだろう。  しかし、それを嫌だなんて思うことはなく、むしろ幸福を感じてしまう。ある意味では、幸せなことなのだが達也は「本当に千歳でいいのか?」と確認したくなった。 「さて、と……」
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