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それに唯は、これからは何かの目的で千歳と共にいるのではなく、ただ彼が好きだからという理由でそばにいたかった。
何年も唯がお世話になっている医師は、話を聞くなり目の色を変えた。どうしたのだろうと唯が疑問を浮かべるよりも先に、彼女をしっかりベルトで縛り、数人がかりで採血を始める。
「え」
唯は忘れていた。
――検査。
検査と言えば、採血。つまり、注射。
千歳のことばかり考えすぎて、すっかり忘れていたのは医師にとってはいいことである。逃げられずに済んだ。
もしや、千歳が病院に行くまで恋人と認めてくれなかったのは注射から逃げようとするのを未然に防ぐためでもあったのではないか。その可能性に、終わってから気づいても遅い。
驚いて貧血になった唯は三十分ほど病院のベッドでぐったりしており、検査が終わる頃になって呼び出される。たかが注射で大袈裟な、とは唯を長年知っている看護師たちが思うことはない。横になった後も、顔を青白くさせてよぼよぼと歩いているからだ。採ったのは血だけのはずなのだが、寿命まで減っているように見える。
「それであの……どうでしたか?」
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