第1章 副社長と契約恋愛(2)

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「仕事にミスはないですけど、ぼんやりしているというか」 「すみません」 「怒っているわけではないですよ」  唯も最近、自分が心ここにあらずであることに自覚はあった。 「気をつけます……」 「そうではなくて」  千歳は緩やかに首を横に振る。艶やかな黒髪がさらりと揺れた。  一つ一つの動作に品があり、唯は気を抜くと彼のことをいつまでも眺めてしまいそうになる。  もうすぐ三十一歳になる千歳の見た目は、唯が出会った時とそれほど変わらなかった。知的で中性的な顔は常に涼しげな笑みを浮かべており、取引先で若いからと馬鹿にされても笑っている。そうして最後には欲しいものを全部取っていく人だった。 「何かあったんですか」 「何もないです」 「本当に?」 「……本当、です」  仕事関係では何もないのだ。嘘ではない。  それでも間ができてしまったのは、嘘を吐いている気分になったからだ。 「分かりました」  しかし、千歳は深く追求するのを止めてくれた。  唯は助かったとばかりに心の中でほっと息を吐く。
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