第5章 全部あげたい(3)

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 千歳の住むマンションに帰り、唯は手持ち無沙汰になる。夕飯を作るにはまだ早すぎる時間だった。彼が用意してくれた自室に入り、段ボールに入ったままになっている私物を片付けることにする。どうせすぐに引っ越すだろうと思っていたからそのままにしていたが、その予定はなさそうだった。元々ものが少ない唯はすぐにその作業も終わり、そういえばと立ち上がる。 (AV男優が書いた本ってどこにあるんだろう)  今なら千歳はいない。彼のいない部屋に勝手に入るのは憚られるが、部屋の扉を開けて本棚にあるかどうかだけを確認するなら……良心も咎めないか。  そこまでするなら入って探せばいいのに、唯は千歳の部屋の扉を開けて本棚に目を凝らす。 (あ……)  難しい専門書や自己啓発本が並ぶ本棚に、ショッキングピンクの背表紙の場違い感。すぐにあれだと分かるほど、異様な雰囲気である。どうしてその本棚に入れてしまったのだろうかと、唯は複雑な気持ちになった。 (まあ、千歳さんだし……)  やましいことなど何もないのだろう。他の人がその本を見つけて、ちゃかそうとしても本心から性的な内容が書かれた本を勧めそうである。
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