第5章 全部あげたい(4)

4/7

234人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
「告白は何度だって受け付けます。毎日特別な日にしたっていいんです」 「でも千歳さんはちゃんと区切りをつけたいって言っていたじゃないですか」 「俺を喜ばせようとこんなに頑張って用意してくれたんです。充分ですよ。だから後は唯が決めてください」  気持ちは充分伝わっているからと、千歳は唯を慰めるように頭や頬を優しく撫でる。指先は戯れるように唯の唇を撫で、彼女の言葉を待ち焦がれているかのように熱い眼差しを注ぐ。 「千歳さん」 「はい」  唯は言葉だけで伝えたくはなかった。それは千歳がしてくれたことでもある。今まで千歳からどれほどの愛情を注いでもらっただろうか。その想いに、たった二文字で返すことなんてできなかった。  彼女は重たい腕を動かし、千歳の左手を取る。白く骨張った手は、唯を拒まなかった。 「好きです」  千歳の薬指を掴み、そこへ唯は唇を押し当てる。 「もう二度と、千歳さんから逃げません」  誓うように、祈るように、想いを込めた。  この先、何があっても、自信を失うようなことになっても、唯は千歳のそばにいるために努力する。  唯は瞳を逸らさず、千歳を見つめ返した。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

234人が本棚に入れています
本棚に追加