第5章 全部あげたい(4)

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「はい、逃がしません」  いつだって穏やかな表情が、花がほころぶような優しく甘い表情へと変わる。  彼の返答は、唯の言葉を信じていないわけではない。信じていて、それでもこれから先も愛情を注ぎ続けるという意味だった。  唯が唇を離すと、今度は千歳が同じ箇所に唇を寄せる。 「んっ」  指の皮膚が引っ張られるような感覚に唯は声を漏らす。  千歳が唇を当てた場所には朱色が滲んでいた。まるで何かを予約するような痕に、唯が頬をさらに赤く染めると、千歳は小さく笑い声を零した。 「じゃあ、まずは恋人としてよろしくお願いします」 「……はい」 「体、動けそうですか?」 「もうすこしで薬の効果が出ると思うんですけど」  熱が出たとしても、前よりは高熱にならないはずだと医師は言っていた。ならば、薬の効果が出るのもそれほど遅くはないはずだ。  けれど今は、ひたすらに気怠い。 「えっと、ご飯……」 「唯はお腹空いてますか?」 「う……」  風邪を引いたら食欲がなくなるはずだが、今は熱が出ているだけ。なのに普段以上に空腹を感じていた。きゅう、と鳴りそうなお腹を押さえていると、それだけで伝わったらしい。
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