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「はい、逃がしません」
いつだって穏やかな表情が、花がほころぶような優しく甘い表情へと変わる。
彼の返答は、唯の言葉を信じていないわけではない。信じていて、それでもこれから先も愛情を注ぎ続けるという意味だった。
唯が唇を離すと、今度は千歳が同じ箇所に唇を寄せる。
「んっ」
指の皮膚が引っ張られるような感覚に唯は声を漏らす。
千歳が唇を当てた場所には朱色が滲んでいた。まるで何かを予約するような痕に、唯が頬をさらに赤く染めると、千歳は小さく笑い声を零した。
「じゃあ、まずは恋人としてよろしくお願いします」
「……はい」
「体、動けそうですか?」
「もうすこしで薬の効果が出ると思うんですけど」
熱が出たとしても、前よりは高熱にならないはずだと医師は言っていた。ならば、薬の効果が出るのもそれほど遅くはないはずだ。
けれど今は、ひたすらに気怠い。
「えっと、ご飯……」
「唯はお腹空いてますか?」
「う……」
風邪を引いたら食欲がなくなるはずだが、今は熱が出ているだけ。なのに普段以上に空腹を感じていた。きゅう、と鳴りそうなお腹を押さえていると、それだけで伝わったらしい。
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