第5章 全部あげたい(5)

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第5章 全部あげたい(5)

 はっきり言って、あれは罠だった。恋人なのだ。何もないわけがなく──なんてことはない。唯は途中で一ミリほど期待しかけたが、ない。まったくなかった。  千歳は本気で唯を心配し、大切にしていた。頭を丁寧に洗い、体も性的な部分は唯に任せて他を洗う。浴槽に入る際は足を引っかけて倒れないように、手を掴み、そっと背中を支えてエスコートしてきた。疲れてしまわない程度にお湯に浸かった後は、ふわふわの白いバスタオルで唯の体を包み、濡れた髪を優しく拭く。  恋人契約中だった時の千歳は、さすがにここまでしたことはない。それでも唯は、契約だった時も千歳は恋人として優しくしてくれたと思っている。  本当の恋人になった今は、その優しさに加えて千歳がやりたいことをやりたいようにやっていた。主に、以前の唯であったら全力で逃げ出していただろうことをやっている。 「どっちの部屋で寝ますか?」  後は寝るだけとなった頃、千歳がのんびりとした口調で問いかけた。 「千歳さんの部屋で」
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