第5章 全部あげたい(5)

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 すこし冷たくなってきた小さな指に触れ、千歳はゆっくりと顔を近づける。唯は触れてくれた手に応えるように力を込めて、唇を受け入れた。 「……っ」  ゆるゆると、緩慢で余裕のある舌が唯の口内を侵食する。ゆっくりと丁寧に唇を貪られ、彼女の体が火照っていく。じんわりと心地のいい熱を、千歳は大切に抱きしめる。すると唯も腕を回して身を任せた。  千歳は言葉には出さず、何度もふにふにと体を押しつけて喜んでいる彼女に、そっと笑みを零す。本当についこの間まで処女だったのだと実感していた。会社にいる時はてきぱきと仕事をこなす人物だというのに、男を誘惑する仕草が可愛らしい。唯には誘惑するつもりなどなく、ただ触れたくてやっているだけのことだから余計にそう感じていた。 「んっ、んむ……」  長く唇を重ねていると、唯は戸惑うように吐息を零す。いつの間にやら、千歳の手は彼女の腰を撫でていた。優しく暖めるような手つきで触られているせいか、腰の骨が蕩けてしまいそうになる。さっきまでできていた息継ぎさえできなくなるほど余裕がなくなっていった。
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