第5章 全部あげたい(5)

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 そうなのかも。  いや、そういう問題ではない。  まさか、そんなことはないだろうと唯は一瞬浮かんだ可能性を否定する。けれど千歳は万全の体勢になっていた。 「ひぁ」  唯の股に何かがぬるりと這う。一秒にも満たない行為だったが、彼女の背がしなる。 「あ、……あ、千歳、さ……」  何をするつもりなのか、千歳は一度行動で示した。けれど、唯は理解が追いつかない。 「逃げないんですよね、唯」 「へ……、あの、でも、これ……」  逃げないという誓いが、とんでもないことに使われている。そういう意味での誓いではなかったが、逃げないと言ったその日のうちに逃げるようなプライドのない唯ではない。逃げたくはない。逃げたくはないのだが──。 (これは逃げても許されるのでは……!)  千歳から逃げたくない。  でも千歳の舌からは逃げたい。 「ふ、ぁ、……だっ、だめ、だめです、だめですから、千歳さんそんなところっ」  千歳の頭を押し戻そうと手を伸ばす。けれどもびくともしないし、舌で良くなってしまった唯の腕は力が抜けてしまい、ただ千歳の頭を猫のようにぺちぺち殴っているだけになる。
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