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第5章 全部あげたい(6)
「唯、起きてください」
柔らかな声が唯の意識を呼び覚ます。つい甘えたくなるような声音に、彼女はもうすこしだけと目を閉じ続ける。
すると、千歳は唯の頬や耳に音を立ててキスをした。
「ん……千歳さん」
くすぐったさに負けた唯は、目を開ける。千歳は着替えを済ませており、普段の仕事用のシャツの上に何故かエプロンを着ていた。
「おはようございます。そろそろ朝食ができるので、起きてください」
「おはようございます……朝食?」
朝食ができるという言葉に、首を傾げる。それはまるで、千歳が作っているかのようだった。寝ぼけている唯はひとまず顔を洗いに行く。体の方は昨晩の営みでやや気怠いが、会社に行く頃には普段の調子に戻っているだろう。やはり、軽井沢での夜がおかしかったのだ。
顔を洗い、着替えを済ませた唯はリビングに向かう。
朝食ができるってどういうことだろうか。
寝起きに浮かんだ疑問が再び浮上する。
料理を作るという意味以外にはないはずだが、他の意味もあったのかもしれない。
「千歳さん?」
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