第5章 全部あげたい(6)

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 千歳は台所に立っており、黒いエプロン姿でフライパンを握っていた。バターの香ばしい匂いと、パンが焼ける音に誘われ、唯は彼の隣に立つ。 「できました」 「美味しそうですね」  黄金色に輝くフレンチトーストは、ちょうど焼き上がったところだった。千歳はその二枚をそれぞれのお皿に盛り付ける。  他にもサラダやカットフルーツも用意されており、華やかな朝食になりそうだった。 「千歳さん料理って……」 「どうかしましたか?」  千歳は不思議そうに唯を見る。  別に、千歳は唯に対して料理ができないとは言っていない。勝手に唯が思い込んだだけである。何でも器用にこなす千歳が、御曹司だからという理由で料理が苦手であるはずがなかった。 (でも、隠してはいたのかな……)  料理ができることを知られないように行動していたのは、このマンションの中で唯の居場所を作るためだったのだろう。何の役割もないまま、ただお世話を受けるのは唯にとって苦痛でしかない。 「いいえ」  唯は笑って、追求するのを止めた。  これは責めるようなことではない。 「朝ご飯、作ってくれてありがとうございます」
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