235人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
千歳は台所に立っており、黒いエプロン姿でフライパンを握っていた。バターの香ばしい匂いと、パンが焼ける音に誘われ、唯は彼の隣に立つ。
「できました」
「美味しそうですね」
黄金色に輝くフレンチトーストは、ちょうど焼き上がったところだった。千歳はその二枚をそれぞれのお皿に盛り付ける。
他にもサラダやカットフルーツも用意されており、華やかな朝食になりそうだった。
「千歳さん料理って……」
「どうかしましたか?」
千歳は不思議そうに唯を見る。
別に、千歳は唯に対して料理ができないとは言っていない。勝手に唯が思い込んだだけである。何でも器用にこなす千歳が、御曹司だからという理由で料理が苦手であるはずがなかった。
(でも、隠してはいたのかな……)
料理ができることを知られないように行動していたのは、このマンションの中で唯の居場所を作るためだったのだろう。何の役割もないまま、ただお世話を受けるのは唯にとって苦痛でしかない。
「いいえ」
唯は笑って、追求するのを止めた。
これは責めるようなことではない。
「朝ご飯、作ってくれてありがとうございます」
最初のコメントを投稿しよう!