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女性客の視線が千歳に集まっている。彼女たちの目には芸能人とそのマネージャーに見えていることだろう。謎の敵対心を向けられるよりはいいはず、と唯はポジティブに考えてどの席に座るか悩んだ。
「大丈夫ですよ、会社を出る前に予約しています」
千歳は店員に話しかけると、お店の奥へと案内される。唯もそれに続いた。
案内されたのは、掘りごたつの個室だった。ここでなら、視線に晒されることもないだろう。
「月野さんはこういうお店、好きかなって思ったんですけどやっぱり男性が来ると目立ちますね」
「個室を予約しておいてよかった」と呟く千歳に、唯は「そうですね」と無難に返事をした。もちろん本心では絶対に違うと思っている。
男性客なら他にも一人か二人はいた。なので、男だからという理由で視線を向けられるはずがない。
けれど、千歳本人は無自覚だ。
謙遜でも何でもなく、自身の容姿を褒められても「ありがとうございます」とは口にするが本気で受け取ったことはなかった。だから唯もわざわざ訂正する気はない。
「今日は好きなだけ頼んでください」
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