第5章 全部あげたい(6)

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「これからは作れる人が作ることにしましょうか」 「そうですね」  千歳が作った朝食は見た目もいいが、食べても美味しかった。パンの柔らかい食感を残しつつ、外側はほどよい歯ごたえがある。ものすごく凝った料理ではないのだが、シンプルでありながらも見た目や匂い、味や食感が唯の好みだった。家庭の味ではなく、お店の味。最初からお皿に盛られていたら、千歳が作ったことに気づかなかったかもしれない。 「千歳さんの料理、美味しいです」 「唯の口に合って良かったです」  ほのぼのとした朝食風景だった。  唯も千歳ものんびりと朝食を食べて、今日からはもういいかと一緒に出勤することにする。会社に着く時間は、就業時間より一時間以上も前なので、人は少ない。二人で会社に入ったとしても、社員の視線を集めることはないだろう。  実際、二人が同時に会社に入ったのを見た人がいても気にした様子はない。  ただ、社長の達也だけは唯たちを二度見していたが、何を言うわけでもなく大変気まずそうに離れていった。 「社長、どうしたんですかね」  挨拶をし損ねた唯は、千歳に声をかける。
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