第5章 全部あげたい(6)

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 唯はまじまじと千歳の顔を見る。女性と見間違ってもおかしくないほどに、透き通った肌。艶やかな黒髪、くっきりとした目鼻立ち。相手の心を見透かすような落ち着いた瞳。これで物腰も柔らかく、基本的には女性に優しいのだ。話しかけられただけでドキドキする人は多い。その上、そこにわざとらしさもなければ下心のもない。千歳はただ丁寧に対応しているだけだ。だからこそ、好きになってしまう人が多いのだ。魔性の男性と言っても過言ではない。唯もとうとう落ちてしまった側に立つことになったが、千歳本人に本気でこられたら耐えられるはずもなかった。 「千歳さん、魅力的だから」 「ん?」  彼は聞こえなかったとばかりに唯の顔に耳を寄せる。  すでに会社の中だが、周囲に人はいなかった。こんなことをするのは、まだ副社長室の部屋には入っていないからだろう。  副社長室へと続く廊下の真ん中で、二人は立ち止まる。 (絶対に聞こえていたのに……)  どうせもう一度聞きたいだけなのだ。けれど、今日は朝から千歳に翻弄され続けている。  唯は、寄せられた耳に軽く唇を押し当てた。
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