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すると、ピタリと千歳の体が硬直する。まさかこう来るとは思っていなかったのだろう。
「私は先に部屋に入ってますね」
「待ってください、唯」
千歳の前に行き、スタスタと歩く。後ろから聞こえる焦った声に、唯はやりきったという気持ちがわいた。
「俺は自分からキスをして、相手より顔が真っ赤になるところ、すごく可愛いと思いますよ」
背後から来た言葉に、唯はその場でへたり込む。
(もうやだ、勝てない……)
すぐに追いついた千歳は耳まで赤くなって睨んでくる恋人に苦笑を零した。
その日、仕事は何事もなく終わった。二人はいつも通りで、違うのは仕事が終わると揃って副社長室を出たことである。
「今日はタクシーで帰りましょうか」
「そこまでしなくてもいいんですけど……」
けれど、千歳はすでにタクシーを呼んでいた。会社を出てすぐそばに、タクシーが停まっている。
「今日だけですよ」
それならばいいか、と唯は後部座席に乗る。その隣に千歳も入り、「ここの住所までお願いします」と言って運転手に紙を渡す。
「ん? ……ああ」
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