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冷たくて気持ちいい。
千歳は思わず、その指に自分から額を押しつけたくなった。
もっと構って欲しい。
(風邪を引いて心細くなるってこういうことなのかな)
何かを恋しいという経験がまったくない千歳は、誰なのか分かったのに目を瞑り続ける。
心地の良い指先がそっと離れる。綿菓子のような夢が終わるのを感じ、千歳はゆったりと目を開いた。
時刻は昼間だったが、それほど眩しくはない。部屋の電気は消され、窓はカーテンを閉じていた。
「副社長……?」
心配するような声音で呼ばれて、千歳は胸が苦しくなる。無償の愛に触れた気さえしたのに、名前を呼んでもらえなかったことに落胆していた。これが当然の距離だ。千歳は副社長で、相手は千歳の秘書。それ以外に接点はなく、仕事上の関係でしかない。
「月野さん、どうしてここにいるんですか」
「社長が面倒を見てくれないかって……」
言葉を濁す月野唯に、千歳はそれが嘘であることがすぐに分かった。気を遣わせまいと、考えたのだろう。結局、本人にはバレてしまっているが。
「ああ、そうなんですね。すみません、もう大丈夫だと思うので月野さんは戻ってください」
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