プロローグ

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 一度甘え始めると、際限なく甘えてしまいそうだった。秘書だからと言って、私生活までお世話になるわけにはいかない。千歳は上半身を起こし、もう大丈夫だと訴えようとしたが意外にも唯は彼の両肩を押す。 「そういうわけにはいきませんよ。お腹、空いていませんか。遅いお昼ご飯になりますけど、すこしでも食べてから薬を飲んでください」  こんなに大胆なことをする唯を見るのが初めてだった千歳は目を瞬く。  彼女は千歳から一歩どころか二歩も三歩も下がってついてくる女性だった。仕事は好きだが、目立つのはあまり好きではない。仕事を褒めると喜ぶし、食事に誘えばとりあえずはついてくるが、だからといって千歳に対して慣れ慣れしい態度は取らない。はっきりと線引きをする女性だった。それでいて、千歳が仕事ばかりしていると心配して手伝うお人好し。千歳に好かれたくてやっているのではなく、このまま帰っても落ち着かないから手伝うという点が、何とも難儀な性格である。本人は気にしていないので、千歳もそれならと満足するまで仕事を手伝わせている。  唯は千歳をしっかりベッドの中に戻すと、お粥を持って来た。
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