プロローグ

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 助けてくれるのなら、遠慮なく助けてもらおうか。彼女の珍しい態度も見ていたくて、千歳は抵抗するのを止める。お粥を受け取り、一口食べた。適度な温かさで、ほんのりと甘い。小学生の頃に熱を出しながら一人で作ったお粥とはたいぶ違う。そういえばあの頃は味よりも義務感が強く、とりあえず消化に良いものをお腹に入れてしまえばいいと思っていたから味付けは考えていなかったと千歳は一人納得する。風邪を引いた時、お粥を作ってもらったのは人生初めてだ。ちなみに両親はそんなことしない。自分たちの分だけ作って食べるので、千歳は残った分を無心で食べていた。残飯処理だ。 (こそばゆい……)  普段、人に見られることは気にしない千歳だったが、何故か今は胸がそわそわする。  最後まで食べられるかどうか気にする視線は嫌ではない。千歳は彼女に見守られながら、ゆっくりと咀嚼した。 「じゃあ、副社長はしばらく寝ていてください。夕飯、簡単に食べられるものを作っておくので、目が覚めたら食べてくださいね」  唯はほっと息を吐いて、立ち上がる。  もう大丈夫そうだと安心する彼女を見た千歳は、息が詰まった。 (……嫌だ)
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