僕の初恋

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 すっかり速水さんの観察に夢中になった僕は、授業中でさえ彼女のことを盗み見ている。  教科書を両手で持ち、熟読しているふりをして、そっと盗み見る。位置が位置だから、顔は見えない。けど、髪をかけた耳がよく見える。 (こっち向け、こっち向け)  向かれても困るけど、念じずにはいられない。  念が本当に飛んでしまったのか、速水さんは僕を見てくれた。けど、あの時と同じように、大きく目を見開いた後、そそくさと前を向く。  翌朝、教科書を机に入れると、小さな物音が聞こえた。教科書を引っこ抜き、机の中に手を突っ込むと、丁寧に折りたたまれた紙が入っていた。  開いてみると、女子が好きそうな、淡いピンクの水玉模様のメモ用紙だ。 『昨日の授業、暇だった? 縁 PS.返事は教壇に入れてね』  嬉しさのあまり、声を上げそうになるのを、必死で押さえた。思わず速水さんの方を見るけど、彼女は読書をしていて、こちらを見ようとしない。  改めて、小さな手紙を読み返す。何故教壇なのだろう?  いや、そんな無粋なことを考えてはいけない。僕の友人の席は、彼女の近くにない。廊下側の1番前なら、さりげなく渡せたが、速水さんの席は2番目。さりげなく渡せる場所ではない。  きっと、シャイなのだ。だから先生も使わない教壇に目をつけたのだ。  昼休み、僕は早速返事を書き、教壇の中に入れた。ちなみに文章はこうだ。 『うん、暇だった。いつも本読んでるけど、どういうのが好きなの? 守』  当たり障りのない文章を意識してみた。いきなり踏み込んだ話題はNGだ。それは兄とネットで学んだ。
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