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「だ、だって仕方ないじゃないですか。あの時はその、お姉さんも抱きついてましたし。ふたりの顔もあんまり似てなかったから、そう思っちゃったんです」
麻央の言葉に間宮は「……まぁ、そう見えるよな」とつぶやいた。
「でも納得しました。どおりで家の中に入れるのに躊躇がないわけだと」
「おいおい。俺だって誰彼構わず家に入れるわけじゃないぞ。あの時は特別だから」
「えぇ? それって、私は特別ってことです?」
彼が独身だと知り、今までの懸念がなくなった安心感のせいか、つい調子に乗った発言をしてしまう。
言ってからその意味を悟り、麻央は慌てて「な、なーんて……」と付け加える。
けれど間宮は被せるように「そうだな」と言うから、ドキリと心臓が跳ねた。
「あんまりにも可哀想な乞食がいたもんだから、思わず家にあげちゃったよ。隣で野垂れ死にされても困るし」
毒のある発言に麻央の眉間に皺が寄る。
間宮はまた上機嫌に歯を見せて笑っていた。
「……そういうこと女子に言うの、ほんっと失礼ですよ!」
「それは悪かったなぁ。やっぱ俺、女子の扱いは慣れてないみたいだわ」
ケラケラ笑う間宮は、絶対そんなこと思ってないと麻央は確信した。
間宮との会話は、ひまわりに向かう時よりもずっと弾んで、麻央たちはあっという間に家に着いた。
間宮は麻央の家の前に車をつけ、荷物を下ろした。
「買い出しまでさせてもらって、ありがとうございました。子どもたちとも遊べて、楽しかったです」
「こっちこそ助かった。またタイミング合えば、一緒に行ってくれよ。きっと子どもたちも喜ぶから」
「はい、ぜひ!」
麻央は間宮に向かって満面の笑みを浮かべ、うなずいた。
間宮はそれを優しそうな瞳で見下ろす。すると、「これ、やるよ」と言って何かを取り出す。
それは、今日持っていったあんぱんだ。
「これ、今日のパン?」
「そう。さっき別のも買ってたから、ひとつだけな」
「うれしい。ありがとうございます……」
「あ、できたら今日中に食べてな。じゃ、また」
間宮はひらひらと手を振ると、運転席に乗り込み、車を走らせる。とは言っても、隣の家だからすぐそこなのだけど。
彼の駐車場は家の裏にあるから、麻央からは見えない。
麻央は車が見えなくなってから、自分の家に入った。
買い出ししてきたものをしまい、エコバッグをたたむ。
テーブルには今日買ってきたパンと、間宮からもらったあんぱん。
麻央は椅子に座ると、あんぱんを取り、袋を開けて齧り付いた。
しっとりした生地は、昨日のメロンパンとは異なる食感だ。生地は薄く、ぎっしりあんこが詰まっている。
噛み締めると、ほんのり甘い香りが広がる。
その甘みは、疲れた体に心地よく沁みていく。
「……間宮さんがいれば、パン屋なくても良いかもなぁ」
麻央は口もとをほころばせ、思わずそうつぶやいた。
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