2 ご褒美のあんぱん

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車は太い道路まで出ると、町中方面へとひたすら走る。いつもはバスで眺めている光景だ。 「立川さんは、東京から来たんだっけ。どう? 慣れた? せせらぎ市は」 「だいぶ慣れました。車がないので、不便ではありますけど」 「車校は? 行く予定ないの?」 「まずは生活が落ち着いてからと思って。でも、車校は町中にしかないから、行くにもけっこう大変ですよね」 「まぁなぁ。もう少し町の近くなら、車校のバスもあるだろうけど、さすがにあの辺りまでは来ないよな」 間宮はハハハと笑っている。その様子からして、完全に他人事といった雰囲気だ。 「間宮さんは、せせらぎ市出身なんですか?」 「まぁそうだね。一時は別のところに住んでたこともあるけど。結局戻ってきちゃったな」 間宮の返答に、麻央は首を傾げる。 間宮は単身赴任だと考えていたが、『戻ってきた』という言い方は、転勤とは異なるように聞こえる。 もしかしたら、単身赴任は奥さんのほうなのかもしれない。だか、彼女のもとには子どももいるのだ。それは単身赴任とは言わないだろう。 (……っていうか、なんで私がこの人の家族事情にこんな頭を悩ましてんのよ。私はこの人が既婚者だってことも知らない(てい)なのに) 麻央は考察を諦め、窓の外に目を移した。徐々に町へ近づいていることがわかる。 「今日ってどこに行くんです? 何するかも聞かされてないんですけど」 「ん? 町中にあるひまわりっていう児童養護施設」 「児童養護施設?」 思いもよらない行き先に麻央は目を丸くする。なかなか普通だと行く機会の少ない場所だ。 「それって、仕事ですか?」 「いや、仕事は別。仕事のない週末に行ってるんだよ。パン持って」 「じゃあ、ボランティアってことですね」 「まぁ、そんなとこかな」 なんだ。けっこう真面目な人なのかな。 少し拍子抜けしていた自分に気がつき、麻央は眉をひそめる。 (いや、既婚者のくせして女子連れ回してることには変わらないんだから。気を緩めるなよ、自分) 麻央は胸に刻むようにそう念押ししておく。 「ほら、そこの建物だよ」
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