2 ご褒美のあんぱん

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間宮が顎でさした先を見ると、『ひまわり』と書かれた看板が立っている。間宮は左ウィンカーを上げ、その駐車場へと入っていく。 「おぉ、奴らさっそく来たぞ」 白線と白線の間に車を停めた間宮は、バックミラーを覗くとそんな声を上げた。 すると麻央が座る助手席側の窓を誰かが「バン!」と叩く。 驚いてそちらを見ると、そこには小さな手のひらがいくつもあった。 窓から覗いてみると、目をキラキラさせた子どもたちが数人立っている。 「おらー、お姉さんがドア開けれないだろ。どけどけ。言うこと聞かない奴にはパンなしだぞ」 運転席から降りてトランクのほうに向かう間宮を、子どもたちは「わー! パン、パン」と叫びつつ駆け足で追いかける。 間宮はトランクを開け、袋で包んだパンを入れたコンテナを取り出した。 それを見た子どもたちは歓声を上げる。 「たくさんあるから、安心しろ。ほらほら、みんな中に行くぞ」 間宮はコンテナを抱え、建物のほうへと向かっていった。彼は麻央のほうを見ると、「こっちこっち」と笑いかける。 麻央は慌てて彼のあとを追いかけた。 間宮は玄関を通ると、迷うことなく廊下を進む。 着いた先は広い部屋で、いくつか大きなテーブルが並ぶ。どうやら食堂のようだ。 間宮はそのテーブルの真ん中にコンテナを置く。あっという間に周りには子どもたちが集まった。 「うわーい、メロンパン! 私、大好きっ」 「コッペパン、今日は何挟んであんの!? 俺、あんこバターがいい」 「俺、レーズン苦手だけど、トーマ兄ちゃんが作ったパンはうまいんだよな〜」 子どもたちは思い思いに好きなパンを受け取り、うれしそうに駆けていく。 「ちゃんと座って食えよ! そしたら後で、この姉ちゃんが遊んでくれるから」 「えっ!?」 急に自分に話を振られ、麻央は横の間宮を見上げる。彼はうれしそうに微笑み、真ん中の三本の指を掲げて見せた。 「メロンパン三つ。お支払いよろしくお願いします」 昨日の出来事を掘り起こされ、自分がここに連れてこられた目的を理解する。 「〜〜〜わかりました! やればいいんでしょ!」 麻央はおとなしく、間宮の指示に従うことにした。子どもたちはパンを食べると麻央のもとに駆けてくる。 「お姉ちゃん! 何する? ドッジボール?」 「鬼ごっこしようよ〜。それか、かくれんぼ!」 たくさんの子どもたちに囲まれた麻央は、腰に手をやる。子どもたちを見据え、覚悟を胸に声を張る。 「よーし、今日は目一杯一緒に遊ぶよ! まずは鬼ごっこだ!」 「「やったー!!」」 麻央は子どもたちと共に、グラウンドに駆け出して行った。 * 「はは、元気いいなぁ」 間宮は食堂の椅子に腰掛け、駆け回る麻央たちを眺める。 すると後ろから「透馬くん」と呼びかけられる。
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