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間宮が連れてきてくれたのは、麻央の行くスーパーとは別の系列の店だった。
カゴを取ると、間宮がカートを持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
「俺も買いたいものあるから、どうせなら一緒に使おう。上使っていいから」
麻央はありがたくカートの上にカゴを置く。
間宮の分も、と下にもカゴを置いたら「あ、ありがとな」と返された。
入ると、いつも行く店とは違うテーマソングに出迎えられる。
いつものスーパーだと入り口は野菜と果物が置かれているけれど、この店は惣菜が入口に置いてある。せっかくだし、夕ご飯用に買っていこうかなと、唐揚げなどの揚げ物を物色する。
「あら! 透馬くん?」
突然後ろから呼び止められ、それに思わず麻央も反応してしまう。
振り返ると、間宮のそばにひとりの中年女性が近づいてくる。どうやら知り合いのようで、間宮も挨拶している。
「久しぶりねぇ。元気でやってる?」
「はい、おかげさまで。おばさんは体調どうですか?」
「まぁ、ぼちぼちよ。そういえば美琴ちゃんから透馬くんが作ったパン分けてもらったわよ。美琴ちゃんの子どもも、自慢してたわよ。おじちゃんはパン屋なんだー!って」
「そんな……。ただの趣味ですよ。またおばさんとこ寄る時にも、持っていきますね」
少し言葉を交わすと、その女性はちらりと麻央のほうを見た。
女性は口もとに手を当てると、「邪魔しちゃ悪いわね。失礼するわ」と言って去っていった。
「なんか、勘違いされたみたいだ。悪い」
「勘違いって……」
麻央はその時、大事なことを思い出して青ざめる。
(あの人、間宮さんと私が一緒にいるの見てどう思ったんだろう。奥さんほったらかして、別の女と出歩くなんて、って思われたのかな!? それはまずい!)
麻央は間宮のそばまで行き、小声で訴える。
「あの、間宮さん。あとでちゃんと訂正しておいてくださいね。私たちのこと……」
「あぁ? もちろんするけど……。そんなに俺と噂されるの嫌か? ちょっと傷つくなぁ」
「噂されて困るのはどっちですか」
麻央は真剣に心配してるのに、間宮はなぜか飄々としていて、まったく気にするそぶりもなく豆腐を手に取っている。
「ま、あの人、けっこう噂好きだからね。もしかしたら、母さんの耳にも入るかもしれないから、それは面倒だなぁ」
「えぇ!? そ、それ、マズイじゃないですかっ!」
「そうだな。変に期待させるのは悪いけど。……ま、立川さんの迷惑にならないようにはするから」
そう言って彼はカートを押して先に進んでいく。
自分に不倫の疑惑がかけられるかもしれないってのに、なんて呑気なのだろう。
麻央は理解に苦しむ。
間宮は別のコーナーに移り、野菜を見ている。
麻央も自分の必要なものをかき集め、カゴに入れていく。
スーパーを一周して、もうすぐレジ、というところで、麻央は香ばしい香りに感付く。
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